2009年05月21日
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面白ショートショート『輝けビッグ斉藤』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 ビッグ斉藤は自分の名前にコンプレックスを持っていた。

 何しろ、ビッグ斉藤である。

 まるで普通ではない。とても恥ずかしい。

 ビッグ斉藤は名付け親の父を呪っていた。

 しかし父が、彼には責任のないもらい事故で重傷を負い、瀕死の状態になったとき、転機が訪れた。

 父は、死の間際にビッグ斉藤に言い残した。

 「輝くビッグな男になれ。そう願って名前を付けたんだ。俺は地味で小さな男にしかなれなかったからな」

 ビッグ斉藤は、このときに何かを受け取って心を入れ替えた。

 確かに父は背も低く、光り物のアクセサリ1つ付けない人だった。ビッグ斉藤も、父の体格や性癖を受け継いで似たようなものだった。

 まずビッグ斉藤は最初に背丈の問題を解決した。スペシャルなシークレットシューズを使えば、自分の身長を平均よりずっと上にすることができると知ると、履きにくいそれを必死に履きこなした。

 しかし問題は「輝き」の方だった。多少アクセサリを付けた程度では、とても目立つレベルには達しない。

 ビッグ斉藤は必死に考えた。

 まず思いついたのはスキンヘッドを輝かせることだった。皮膚に光沢を持たせれば、きっと太陽を反射して輝くことだろう。しかし、ビッグ斉藤は却下した。背の伸びた彼の頭上は、たいていの人間からは死角になるからだ。

 次に、死後の霊魂、人魂を人並み以上に輝かせる方法を思いついた。しかし、やり方が分からなかったので却下した。

 そうやって悶々としていたビッグ斉藤は、年末の国民的歌番組を見ていてハッと気付いた。

 そうだ。電飾だ。

 全身を電飾で飾り立て、輝かせるのだ。

 それから彼は意欲的に行動を開始した。

 まず、高輝度LEDを服に織り込む技術を開発するために、服飾学校に通って講師や優秀な生徒達を口説き落として協力させた。更に、電源が問題だと分かると、電機メーカーにも通い詰めて服の生地に馴染む柔軟で軽い電池も開発させた。

 全てが完成したとき、ビッグ斉藤はまさに輝くビッグな男になった。

 「やったぜ父ちゃん」ビッグ斉藤はそう父の墓前に報告した。

 そして、ビッグ斉藤はファッションのカリスマとなった。多くの者達が、格好良く目立つビッグ斉藤を模倣したいと願い、スペシャルなシークレットシューズと電飾服を争って求めた。シューズはともかく電飾服はビッグ斉藤の発案だったから、ビッグ斉藤には莫大なロイヤルティが振り込まれた。

 やがて、街にはビッグ斉藤スタイルの者達が溢れかえった。

 ビッグ斉藤は久々に街に出ることにした。

 彼は満足げに街の人々の様子を見ながら歩いた。

 その時だった。

 ビッグ斉藤を指さして嘲る者がいた。

 「見ろよ。地味なチビがいるぜ。よくビッグ斉藤スタイルを気取れるな。恥ずかしいって気付よ」

 ビッグ斉藤はハッと気付いた。

 全員が同じシューズと服を着ている状況下では、彼は輝きに劣り、背も低い冴えない男でしかなかったのだ。輝きは本人の輝きによって決まるし、背丈も生身の背丈で決まるのだった。

(遠野秋彦・作 ©2009 TOHNO, Akihiko)

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